今日はミトーに行く。ミトーはホーチミンシティから南西へ約75km離れたメコンデルタ沿いの街だ。すっかり観光地化した風情もあるということだが、それはメコン河のあたりだけで、普通の農家に泊まることはそうそうできない。ベトナム政府自体が一般的には、普通の家に外国人を泊める許可を出していないのだ。Truongさんのとこは特別に申請しているのだろうか。

　朝、奥さんに「カムオン・ニュー」と謝辞を述べ、Truongさんのバイクに搭乗！ちょっとだけインターネットしてから、ミトーへ向かうことにした。ところで、昨日一昨日と日本語環境のあるインターネットカフェがあるデータム通りでは、停電が相次いでいる。カフェのお姉さんも、「いっぱいお客をなくしちゃったわよ」としょげていた。この日は問題なく電気も来ていたので、すんなり用は終わって、さあ出発！

　ミトーまでは2時間くらいかかると言う。こりゃあお尻が痛くなるなあ。でもTruongさんは、お尻が痛いと言えば、いつでも休みをとるよ、と優しい。バイクは、カオス的にまで混雑するホーチミンシティ内を出る。ホーチミンシティ内では、いつもひやひやさせられるので、結構疲れる。なんてったって、交差点には同時に両方向から大量のバイクや車が乱入してくるんだからなあ。ようやく郊外に出て、バイクが少なくなり、はあ、これでストレスからも解放されるとほっと一安心。と、ところが今度は砂煙とトラックやバスの排気ガス直撃が待っていた！ふたりで涙をこらえたり、げほげほしながら爆走は続ける。ふと他のバイクを見ると、女の人はみんなスカーフでマスクをしている。たしかに、あんまりこういうのばっかり吸ってると病気になっちゃうよなあ。

　さらに郊外に進むとトラックも少なくなる。ああ、ようやく快適になるなあなんて思ってると、顔にばちんと何か当たって痛い。なんだあと思って、顔に手をやると濡れている。む？むむむ？なんだあ？と思う間に、大きな雨滴がぽつんっ、ぽつんっと当たってくる。げげっ、雨だあ。あっという間に雨は強まる。慌ててTruongさんは路肩にバイクを止め、用意してあったポンチョを取り出して、僕に渡してくれる。そこからは怪しいポンチョ爆走隊。周りのバイクもみんな同じ怪しいポンチョ爆走隊だった。

　砂塵と排気ガスと激しい雨の中をようやくくぐり抜け、ミトーに着いた頃はもう昼になっていた。Truongさんはしきりに「寒い〜」とこごえている。僕にはちょうど涼しくていいんだけどなあ。

　ミトーではまず最初にメコンクルーズを楽しめ、とTruongさんは言う。メコン河とその支流のクルーズだ。3時間で60$。シンカフェのようなツアーで行くと、もっともっと安い筈だが、Truongさんのお友達のTuocさんは、個人の方が行きたいところへ行けるのだから、リーズナブルだと言う。現金をそれだけもってないんだけどなあ。明日払えばいいよ、とまで言うので、乗っかることにした。

　メコン河は、チベットに源流をもつ、大層長大な河だ。そして下流域ではすっかり砂でにごって、土色になっている。ガイドのTuocさんによると、ここの水深は深いところで7mだそうだ。毎日漁をしているため、魚は小さく、それほど多くはいないということだった。ここには４つの島がある。それぞれ1万、5千、2千、1千人の住民が住んでいる。ボートはもっとも小さい島の中の支流へと入っていく。

　支流に入ると、ココナツの木が周りに群生している。その昔、US海軍、オランダ海軍、韓国海軍の兵士が怖くなって、ガンを周囲に乱射しつづけながらボートを進めたというTuocさんの説明もよく理解できる。どこに敵がひそんでいるか、これではまったく分からない。ところでガイドのTuocさんの英語は非常にうまい。40歳ということだが若く見える。ベトナムの太陰暦では同じねずみ年のうまれということで、なぜか盛り上がる。途中でココナツ製品工場や果樹園でパパイヤ、蜂蜜茶を頂きながら、いろいろ話した。日本は、バイクや電気製品など、いろいろなものをベトナムにもたらしてくれたから好きだと言っている。大戦中の日本の占領については、もうずいぶんと昔のことだよ、と笑っていた。また話がサイゴンの観光について及ぶと、今はサイゴンから他の都市へ観光客が流れている。サイゴンがあこぎで危険という情報が流れているからだ。一部には真実ではある。これは大きな問題だ、と言う。そうだね、僕もそう思っているもの。

　ふと、Tuocさんの小指と親指を見ると、やはり爪を大きく伸ばしている。ハノイからサイゴンまで多くの人がこうしていたが、おまじないなのだろうか。聞いてみる。やはり、幸運を呼ぶおまじないなのだそうだ。一般に、手を反らせたときに、小指の爪が薬指の第一関節に達しているかどうかが幸運のかぎということだ。僕のを見てもらうとOKだという。また手相を見てもらうと、生命線の伸びからして72歳まで生きると言われてしまった。ほんとかよお。

　そうこうしているうちにメコンクルーズは終わってしまった。クルーズそのものは正直言ってあまり面白いものではない。が、約束の60$は払わねば。ああ、そうだ。金が足りないんだった。20$分は出したので、明日銀行によって40$出して払うことにする。

　Tuocさんの日本に着いたら、是非英語の手紙をくれという言葉に了解して、バイクはまだ舗装されていない道路を実家へとひた走る。およそ20分くらい走った頃だろうか。ふと小さな道へ折れて、実家へと着いた。小川が流れるそばに、茅葺きの家。小川が洗面所になっているようだ。早速、家に入ってお母さんとご対面となる。

　「シンチャオ バー」と、目上の女性に対して敬意を表する挨拶をすると、少し受けてくれたようだ。雰囲気的には、日本のどこにでもいるおばあさんという風情がなくもない。いきなり僕の背中を笑いながら、どおんと叩く。結構痛いんすけど。Truongさんのお姉さんまで出てきて、汚れた足や手を小川沿いで洗ってくれる。家の外の炊事場では、食事の準備が着々と進められている。

　隣の家々に住むTruongさんのおじさんたちがやってきて、ともに酒を飲みながら語らう。僕はちょっとしか飲まないし、ベトナム語は話せないので、何を言っているかはさっぱり分からなかったんだけどね。Truongさんによると、おじさんたちは水田農家らしい。非常にもうかっているよ、と笑っていた。と、警察に届けるためということで、お姉さんにパスポートを渡す。このときはさすがに緊張した。大丈夫かなあ。

　食事ができた。おかゆ、にわとりの肉、バナナの木の皮を蒸したやつ、あといろいろ。それに辛子をまぶして、一緒にして食べる。結構あっさり味で美味しいのだが、いかんせん辛子が利きすぎている。汗はでるわ、涙は出るわで、ひいひい言いながら食う羽目になった。お膳一杯を食べたところで「ンゴン（おいしい）！」と言って、お母さんを喜ばせる。すると、もっと食えもっと食えが始まった。ああ、しまったあ。辛くてもう、つらいんだけどなあ。しかし、こういうときにお腹がいかにいっぱいになろうと、食え食えとお膳にどんどん具を入れてくるのは、日本もベトナムも変わらないなあ。しゃれにならないんだけどなあ。途中でティッシュをもらって、汗や涙をふきふき、体力の限界に挑戦することになっちまった。

　3杯目を食べたところで限界だ。それでもお母さんはまだ許す気配がないので、「ノーワッ（お腹いっぱい）！」とギブアップしてしまう。お母さんは、それだけかあ！？という風情で、笑いながらも僕の背中をどんとたたく。ぎゃあ、吐いちまうから、よしてくれえ。上の写真はようやく食べ終わったころなので、額は汗だくだく、笑顔はひきつっているね、おれ。

　そのころにようやくお姉さんがもどってきて、パスポートを返してくれる。ああ、良かった。一安心。おなかが一杯になると、さすがに疲れが出たのか、一気に眠くなってきた。お母さんは、板張りのベッド兼居間の上に横にならせてくれ、蚊帳まで張ってくれた。すこしTruongさんの家族の写真をデジカメで見せて、盛り上げておいてから、お言葉に甘え、眠らせてもらうことにした。

　お母さんは蚊取り線香（日本のと同じ）を焚いて、さらに気をきかせてか、前に日本人がおいていったらしい日本の歌のテープをかけてくれる。しかも大音量で。うるさいんですけど。とは言えず、我慢して横になる。しばらくすると、電気と音楽が消され、夜の静けさに。お母さんたちはこれから食事を炊事場でとるようだ。すると真っ暗な中にお母さんが入ってきて、何かしらベトナム語でしゃべっている。最初はTruongさんに話しかけているのかと思いきや、Truongさんはもう寝ている様子。どうも、子守の物語のようだった。10分くらい続いただろうか、なかなか情趣の深い一夜であった。
　
＜本日の支出＞
　インターネット（朝）    12,000VND
　ミトーボートクルーズ（一部）　20$
　果樹園果物            20,000VND
　ミネラルウォーター　 10,000VND
　
　（それ以外は全部、Truongさんが払ってくれた。いいのかなあ。）　
　
　※Webよりベトナム両替レート（'99/05/19現在）

      US$→VND
       50-100 → 13,895
       5- 20 → 13,870
       - 5 → 13,650

       JPY→VND
       1 → 111.08