AM8:00にホイアン行きのバスが出発するので、ホテルのロビーで朝食をとりながら、待つことにする。そこへまた、Vo Kieuがやってくる。なんでも日本人の友達に手紙を2通日本から投函してほしい。ベトナムからのエアメールでは、高くつくから、ということであった。見ると、日本の80円切手が既に貼ってある。先方から事前に送ってきていたのであろうか。快く引き受ける。そこを公安のジープが通りかかる。「共産党の公安か？」と聞くと、「そうだ。ポリスだ」と応える。そしてKieuは小さくぼそっと言った。「共産党は嫌いだ」と。

　バスが来た。Kieuとも別れの挨拶をし、ホテルの受付のお姉さんにも「半年後にまた来るよ」と調子のいいことをいいつつ、バスに乗る。またまた僕以外は欧米人だ。３人はデンマーク人。あとはフランス人とドイツ人。フエからホイアンまでは、約５時間くらいかかるとのこと。途中でランコー村のビーチやハイバン峠というベトナムの箱根に停車しながら進む。今日は途中の道で、カローラやカムリをよく見かける。自動車メーカーとしては、トヨタが一回り先を走っているのだろうか。道を行くお姉さん方の服装は流行なのか、結構画一的だ。白いブラウスにジーンズを穿き、丸い帽子に花を一輪さしている。

　ランコー村のビーチに停車する。ここでしばらく泳いで来いということらしい。海水着はもってきていなかったので、とりあえず浜辺でゆっくりしようかと思っているところへ！出ました。物売り軍団。さっそくおばちゃんから「こんにちは〜」と日本語で攻撃される。あっという間に日本人だということがばれている。おばちゃんは、最初に明治八年製の１円コインを出してきた。ここからは英語で次のような死闘が発生した。

「日本の古いコインだよ。日本じゃ手に入らないだろう。ここで買っていきな。たったの50,000VNDだ。」
「要らない。」
「あんた、なんで要らないの。日本のコインだよ。」
「コインに興味ないもん。」
「もったいないねえ。ここでしか買えないのに。」
「いらんものはいらんの。」
「じゃ、他のは？」
「あとでまた見るからね、じゃ。」
と、ビーチまで進むも、しばらくすると追っかけてくる。
「じゃあさあ、このブレスレットはどう？安いよ。ガールフレンドへのお土産にどうだい？」
「いらん。」
「安いんだから、買っちゃいなよ。」
「安いっていくらなんだ。」
「二つで50,000VND。」
「高いよ。」
「安いよ。じゃ、いくらなら、買うっていうの？」
「えっと、二つで30,000VND」（後記：どうも、ここで術中にはまっているらしい。）
「だめだよ〜。それは無茶っていうもんだ。」
「なんで？」
「だって、一つ20,000VNDで入荷してるんだから、あたしに得るものがない。ご飯が食べられないよ。」
「二つで30,000VNDじゃないと買わない。」
「じゃあ、このベトナム国旗ピンをつけて、合わせて50,000VNDじゃどうだい。お得だよ。」
と無理矢理、ピンを刺そうとする。も、よける。
「それは全然要らない。ブレスレット二つだけで、30,000VND。それ以上びた一文はらわねえ。」
「あんた、あたしの家を飢え死にさせる気かね。助けると思ってさあ。ええいっ、二つで40,000VNDでいいやっ。」
「二つで30,000VND。」
デンマーク人がにやにやしながら、こっちを見ている。
おばちゃんは泣きそうな顔をしながら、
「頼むよ〜。全然ペイしないんだけど、40,000VNDっていってるんだからあ。」
「じゃ、二つで35,000VND。」（後記：後から考えると、なぜ折れてしまったのか。）
「36,000VND。」
「ええいっ、分かった。それで手を打とう！」
ようやく、解放。
が、さらなる敵が・・・今度はお姉ちゃんだ。
「おいおい、もう買ったぞ。」
「知ってるよ、みてたもん。」
「今日はもう何も買わねえ。」
「でも、あの人から買ってあげたんだから、あたしからも買ってよう。」
「やだ」
「そんなこといわないで〜。今日は朝から働いて、何も売れてないのよお。」
「次のバスを待て。」
「そんなの待てない。来ないよ。」
「来る。」
「来ないの。ねえ、じゃあ、この指輪はどう？三つで50,000VNDよ。」
「冗談じゃねえ。そんなのは10,000VNDだ。」
「駄目よう。採算割れじゃない、それじゃ。」
「だって、俺買う気ないもん。」
「えーん、そんなこと言わないで。ね、ね。」
もう、あちこち触ってくる。
「次のバスを待て。」
「二つで25,000VND。」
「だめ。二つでせいぜい10,000VND。」
「あーん、そんなの駄目。」
「でなきゃ買わない。」
そこへバスが出るの知らせが。さっきのおばちゃんも、バスを指さしてくれている。
「あ、じゃあ、俺行くから。」
「あ、あ、待って待って。分かったわよう。二つで10,000VNDでいいよ。好きな色のを選んで。」
選んでいる間、悲痛な声で、仲間にベトナム語でなんかいっている。「ムオイガン」という「10,000」ということを言っているから、さしづめつぎのように言っていたのではないだろうか。
「この日本人のやつったら、10,000VNDまで値切りやがったわよう。えーん。」

　にこやかに「Thank you」といいつつ、僕はバスに戻るも、よくよく見ると、どう考えても安物もいいところ。結局物売りが得していることになっているのだろう。「I bought so much」とデンマーク人に言うと、笑っていた。

　次のハイバン峠でも同様の死闘が繰り広げられ、タイガーバーム６個入りを20,000VNDで買わされる羽目に。そんなことをしているから、バスに乗り遅れそうになって、あわてて乗り込もうとして、バスの天井に頭をぶつける。物売りさんたちも笑っている。

　ホイアンに12:30到着。ホイアンはその昔、中継貿易で栄えた港町だ。しかし、この時間帯には、ほとんど自転車もバイクも通っていない。今は静かな観光名所となっている。ここには戦国時代、日本人も住んでいた。すこしばかり行くと、日本人のお墓もある。これは後日行ってみよう。さて、いくつかのホテルを歩き、いったんチェックインする。トォボン河に出ると、水上市場が始まっていた。この河の眺めは本当に素晴らしい。ここ１週間くらいはこの町にゆっくり腰を落ち着けようかしら。とりあえず、インターネットカフェを見つけよう、とLonely PlanetのWebにのっていた、Thu Thaoという服屋さんに赴く。が、いまはサービス停止中とのこと。途方にくれつつ探し回っていると、ガイドブックにも出ていた中国風の部屋のある人気ホテル「永興客桟」の前に出た。「こんにちは」と受付のお姉さんが日本語で話しかけてくる。どこかインターネットサービスやってるところ知りません？と英語で尋ねると、ここです、というお答え。おお、ようやく見つけたぞ。どうも、このホテルの前の服屋さんの脇にPCを置いてサービスしているらしい。やはり１分1,000VND。欧米人の女性が使っているのを待っている間に、日本語の勉強の手伝いをすることになった。そして、もし良ければこっちのホテルに移らないかという。中国風の人気のある部屋も空いており、18$だという。うーん、なかなか予約がとれないという中国風の部屋が簡単にとれるとは。そんな機会を逃す手はないと、明日今のホテルをチェックアウトして、こちらにうつってくることを確約した。

　インターネットした後で、ホテルに戻り、明日のチェックアウトと一旦行った鉄道のブッキングのキャンセルを依頼し、部屋のベランダでくつろぐ。となりの家のベランダでは、洋楽をかけながら、女の子がその歌を口ずさんでいる。ベトナムの女の子は本当によく歌を口ずさむ。高い声で鳥のように。前の家では、サッカーの実況中継をボリューム一杯にしながら、軒先で家族がテーブルを囲んで団欒している。

　夜はカオラウというホイアン名物料理を２杯たいあげ、ホテルに戻って寝る。

　頭上には、大きなファンが回っており、さらに大きな鏡もある。映画「地獄の黙示録」の冒頭のシーンと同じだ。
　
＜本日の支出＞
　宿泊費　36$＋14,000VND（ミネラルウォーター代ルームチャージ）
　朝食　14,000VND
　腕輪×２　36,000VND
　指輪×２　10,000VND
　タイガーバーム　20,000VND
　シクロ    10,000VND
　お布施    1,000VND
　昼食　18,000VND
　インターネット　10,000VND
　鉄道ブッキングキャンセル代　5$
　夕食（カオラウ×２、ココナツジュース、コーヒー）　26,000VND