朝、シャワーを浴びて、洗濯をする。今日も快晴。洗濯物もよく乾きそうだ。8:00AMは、シクロマンVo Kieuとの約束通り、彼のスーパーカブで王宮に連れていってもらう時間だ。ちょいと遅れて行くと、彼は「Oh,My Friend」などと言いながら、にこやかにやってくる。本当に王宮と銀行だけだかんな。と、確認するも、あれ？ビーチには行かないの？と、昨日の話をもう忘れている。忘れた振りしやがって、このお。

　町はとっくに全開の動きを見せている。その中を彼のスーパーカブの後部座席に座り、特急のスピードで駆け抜けていく。今日は既に38℃の気温ということだが、直射日光さえ浴びなければ、案外涼しい。王宮には、案外海外のお客さんは少ないようだ。やはりベトナムの古都だけあって、国内のお客さんが主流。欧米人はたまにちらほら見かける程度である。Vo Kieuによると、7月は暑いから、海外の観光客も少ないということだ。8月と12月が一番多いらしい。ん？8月は7月よりも涼しいのか？まあ、敢えて追究せず。

　5$の入場料を支払い、王宮の中に入る。「フエ」という名前は元々「ユエ」といい、漢字では「順化」である。中国に千年間支配を受ける中で、首都の名前がそうなったらしい。従って、王宮の中に刻まれている言葉は全て漢字である。一番大きな建物の中には「太和殿」という文字が刻まれており、その横には「嘉隆四年正月吉日」とある。他にも漢詩が刻まれている石碑などもあった。しかし、王宮の中でもっとも印象的なのは、1968年のフエにおけるベトコンのテト攻勢の跡であろう。その激しさを示すかのように、王宮内の壁がほぼ全壊しているものもある。ここで、米兵とベトコンがやりあったんだなあ。そんなことはまるでなかったような静けさの中を僕は歩いていく。王宮内の仏寺では、親切な女性のガイドさんから案内してもらう。木魚といい、仏壇の構造といい、まったく日本と同じ。

　さて、王宮の後は、銀行へとさらにスーパーカブを飛ばしていく。Bietcom Bankは、カウンターの女性がみんな青いアオザイを着て迎えてくれる。今日こそ、折角作ったインターナショナルカードを使うぞ、と意気込むも、お姉さんから、「フエにはATMはないですよ。ハノイとホーチミン市だけです」と冷たいお言葉を頂く。じゃ、クレジットカードで、ということで一回払いのキャッシング。銀行ではパスポートの提示を求められるが、ホテルに預けたままなので、パスポートのコピーを提示してOKとなる。

　このころにはお昼となってしまったので、昼食にフエ名物、Bumboo Ｈｕｅを頂くことにする。牛肉と豚肉入りの辛子あつあつ米麺なのだが、これがおいしい。思わず、おかわりをしてしまった。そこへ、昨日のDMZツアーで泥だらけになった僕の靴をめざとく見つけた靴磨き少年がやってきて、「靴磨きい、靴磨きい」と言う。Kieuを見ると、やらしてあげなという顔をするので、快く任せることにした。その仕事振りの熱心なことには、驚嘆させられる。一心不乱に磨いてくれるのだ。15分ほど磨いて、「どうだ」と見せるので「Your work is very nice」と言うと、今までにない晴れやかな笑顔を見せた。仕事に対する彼の誇りを感じた。僕もこんなところで遊んでいる場合じゃないよなあ。

　約束通り、Kieuの仕事はここまでだ。ホテルに戻ってくれ。え？ビーチに行くんじゃないの？まだ、言うか、この。無理矢理ホテルに戻ってもらって、3$ほどKieuに渡し、お昼寝タイムとしゃれこむことにした。

　3時間ほど眠って、起きると腹が減っていた。美味しいフランスパンを買いにいこっと。ベトナムでは、どこの店に売っているフランスパンも全て美味しい。はずれがないというのが驚異である。と、ホテルを出たそこで見たものは・・・・・にこにこして、待ちかまえているKieuとその仲間達であった。がーん、しまったあ。うかつに出てきてしまったぞお。案の定Kieuは「どうした？何が欲しいんだ。とにかくこっちゃこい」と、無理矢理仲間達の輪に入れてくれる。おーい、君たち酔っぱらってるじゃないかよお。まだ夕方の４時だぞお。見るからに怪しげな面構えのシクロマン達は、ミネラルウォーターの空きボトルに清酒を入れて、おちょこで回し飲みしているのであった（写真のボトルとおちょこ参照のこと）。パンを買ってもらって、さあ、戻ろうとする僕の肩には、Kieuの力強い片手が乗っかっている。げげっ、やな予感。「まあまあ、座れや」。でた。座ると、シクロマン達の質問攻撃が始まる。「一体、何歳なんだ」「結婚しているのか」「家族は何人だ」。ベトナムではどこに行っても聞かれるこの質問をクリアすると、今度は、「まあまあ一杯」とおちょこに酒をつぎ始める。「あのお、すいません。僕のめないんですけどお・・・」。「ん？ベトナムでは勧められたら、とにかく飲むもんだぞ」。酔っぱらいは世界を越える。どこに行っても、酔っぱらいは酔っぱらいだ。なむさん！口をつける。ちょっと飲む。で、げほげほしながら、彼らの顔を見る。これでゆるしてくんない？・・・・彼らはじっと僕を見つめながら、待っている。はあ、許していただけないんですね。もうちょっとだけ飲む。顔を見る。・・・・まだ、じっと見ている。しゃあない！と、一気飲みしたところで、ようやく「おおお」と一斉に言いつつ、彼らの顔が弛緩する。結局飲まされる運命だったのね。前の雑貨屋のおばさんだけがにこにこしながらも、心配そうに僕を見てくれていた。今度は、シクロマンは「たばこを一本ずつ一人一人に分けてくれ」と言う。これがベトナム流なのか？当然のごとく、彼らはそれを受け取り、吸っていく。はあ、なんだか酔っぱらいシクロマンズの仲間入りをしたらしい。小一時間ほど、大いに盛り上がり、謝辞を述べ、ホテルに戻る。

　夜、またお腹が空いて、同じ雑貨店にパンを買いにいったときは、もう彼らはいなかった。おばさんは、パンを渡してくれるときに、果物をいくつか手に取らせてくれる。あれ？これは頼んでないよ。身振りでおばさんはこう言った。「これはあたしからの贈り物」。ベトナムは時に、こんな無償の心からの贈り物をくれる、そんな国ではある。

　明日はホイアンへ移動する。　
　
＜本日の支出＞
　王宮入場料　5$
　ミネラルウォーター（小）　8,000VND
　たばこ　14,000VND
　王宮博物館　2$
　両替手数料　6$
　昼食（Bumboo Ｈｕｅ×２）　14,000VND
　靴磨き＋靴修理　15,000VND
　Kieuバイタク代　3$
　パン×２    2,000VND
　バスチケットtoホイアン　5$　※後で分かったが、Open Touristでブッキングすれば3$とのこと。